財産が無くても「相続」は発生する?権利も義務も受け継ぐ法定相続とは

親御さんが亡くなったことにともなってその財産を子供が引き継ぐようなとき、一般の方は「相続」という言葉をあまり使わないかもしれません。

代わりに使うのは「遺産」でしょうか。遺産と言う場合は土地や現金など価値がある財産を指していることが一般的ですので、自分の親に財産がないと思っている人は相続の問題に関心がないこともあります。

相続の問題を扱う司法書士の立場でみると、法定相続の考え方はもう少し厳しいのです。これから説明していきましょう。

誰かが亡くなったことにともなって、その人が持っていた権利や義務を他の人が当然に引き継ぐことを民法では「相続」といいます。亡くなった人とどんな関係にある人が相続する人、つまり相続人になるかは民法で定められていて、その定めのとおりに相続することを「法定相続」というと考えてください。

「法定相続人」というのは民法の定めにしたがって相続する人、「被相続人」は相続される人、つまり亡くなった人のことをいいます。遺産を相続する、という場合は相続のうち積極財産、つまり価値のある財産を相続することを指しているわけです。司法書士が遺産の相続に関わる場合、多くは不動産の相続登記の依頼に関するもので、これは積極財産の相続の手続きです。

積極財産という言葉があれば消極財産という言葉もあるのか、と考えるかもしれません。この言葉もあります。消極財産とは被相続人の債務のことを指していて、これも法定相続されるのです。

 

被相続人の権利と義務、積極財産と消極財産を相続人が当然に引き継ぐのが相続です。相続とは亡くなった方の預金も借金も引き継ぐものだ、と考えればわかりやすいでしょう。

法定相続は民法の規定が定めた順序と割合で被相続人の権利と義務を引き継ぐことを言うのですが、権利、つまり財産については法定相続と異なる相続の仕方を定めることができます。一方で、義務、一般的には借金その他の負債は法定相続分にしたがって相続することになっています。

たとえば預金100万円と借金50万円を残して死亡した被相続人がいたとします。法定相続人が二名で、もし相続人Aが預金だけ、相続人Bが借金だけ相続することになったらお金を貸している人は困ります。相続人Bには他に財産がないかもしれないからです。こうした不公平な結果に導かないように、被相続人の債務は法定相続されることになっているのです。

逆に、財産がないような人が被相続人である相続でも、法定相続人になった人は債務を法定相続していないか関心をもって被相続人の財産や生活を調べる必要があるわけです。もし被相続人に借金その他の債務があった場合は、その相続を免れるために相続放棄の申述をする必要があるかもしれません。相続放棄の手続きも、司法書士に依頼して家庭裁判所に申立を行う際の書類を作ってもらうことができます。

 

被相続人の積極財産については法定相続分と異なる割合で相続することができます。被相続人が遺言を残していない場合は、法定相続人全員が話し合って合意することで、預金は法定相続人Aに、不動産は法定相続人Bに相続させる、という決めごとをすることができるのです。この話し合いを遺産分割協議といいます。遺産分割協議をする際には、そもそも誰が法定相続人であるかを調査する必要があり、この調査は弁護士・行政書士・司法書士といった専門家が行います。この調査は、被相続人が生まれてから死亡するまでの戸籍の記録をすべて集めるため、司法書士などの専門家に依頼することで迅速に、そして確実に法定相続人の範囲を調べることができるのです。法定相続人になるのは、被相続人の子(子が死亡していれば、孫)、子がいなければ親や祖父母、これらもいなければ兄弟姉妹の順と決められていて、配偶者(夫や妻)は常に相続人になります。この人たちのつながりを明らかにするために、戸籍の記録を集める必要があるのです。司法書士は相続登記や相続放棄の申立に関わる専門家として戸籍の記録を収集することも行っていますから、財産の有無にかかわらず相続の相談を司法書士にしてみるのもおすすめできるのです。