相続人に認知症の人がいる場合の手続きについて
相続人に認知症の人がいる場合、成年後見人を立てなければ遺産分割できません
遺言書がある場合でも遺産分割協議を行う場合でも、相続人に認知症の人がいれば成年後見人を立てなければなりません。
これは本人の判断能力が低下していて、万が一自分の不利益になることを強要されても拒むことができない可能性があるからです。
当然判断能力のない状態の人がいるまま遺産分割協議書を作成してもそれは無効になります。
成年後見人は身の回りの世話をしている家族がなることもできますが、相続が絡んできますと少し複雑になります。
認知症の人(被成年後見人)と成年後見人がともに相続人となれば、利益相反となるからです。
このため遺産分割のについては後見監督人を本人の代理人にするか、選任してなければ家庭裁判所に特別代理人の申し立てをしなければなりません。
この特別代理人とは相続に関してのみ代理を務めます。
なお、相続が始まるよりも以前に認知症の相続人が成年後見人制度を利用していて、成年後見人が第三者であれば全く問題なく遺産分割の話し合いや手続きを進めることができます。
一方、相続が開始してから成年後見人を選ぶとなれば、それにかかる時間を把握しておかなくてはいけません。
なぜなら相続の手続きの中には期限付きのものもあるからです。
相続税の申告が10ヶ月以内、被相続人のするはずだった確定申告を代わりにする準確定申告が4ヶ月以内などですが、最も切迫感のあるのが相続放棄の手続きです。
相続開始を通知されてから3ヶ月の期限が設けられています。借金など負の財産を放棄する手続きなので重要です。
成年後見の申立
一般に成年後見人は家族が家庭裁判所に申し立てをします。
調査官による事実確認が行われ、必要に応じて精神鑑定を経て審判が下されると成年後見人が決まります。
この行程には約2ヶ月かかります。実は選任が相続放棄の期限に間に合いそうになくても、あらかじめ家庭裁判所に期限の延長を申し立てる必要はありませんし、相続人が認知症なので申し立て自体が不可能です。そして後見人が選任されて相続について知らされてから3ヶ月と変更されるので心配はいりません。
認知症の人の財産を守り管理するために選任される成年後見人は相続に関しても代理人を務め、他の法定相続人とともに遺産分割協議にも参加します。
家族が成年後見人になると費用はかかりませんが実務が煩雑で処理の難しい局面がたくさんあります。相続人として利害がぶつかる場合もあります。
司法書士などの専門家が選任されれば、相続後の登記手続きなども安心して任せられます。
登記には成年後見登記事項証明書を添付することになります。
成年後見の費用
成年後見人の申し立て費用や精神鑑定には10万円ほどかかる場合があります。
また、毎月の報酬も発生します。
基本的にこれらの費用は本人の財産から支払われますし、自治体が補助を出しているところも多いので家族の負担にはなりません。
家族が立て替えた分があれば立て替え支出として本人の財産で清算することが可能です。
最近では認知症で入所している施設が本人の身上監護を行い、財産管理を法人が担当するケースも出てきました。法人が成年後見人を務めるメリットとして、複数人がそれぞれの業務を分担して行えるので効率が良いことと、代理がききやすいということです。
また身の回りの世話をする身上監護を切り離すことでお互いの業務を集中して行うことができるのも被成年後見人にとってはメリットが大きいといえます。