相続人が海外にいる場合の手続きについて
相続人が海外に在住している場合でも、基本的な相続手続きの流れは相続人が全員国内在住の場合と変わりません。被相続人が亡くなり葬儀を行う時点で、遺言の有無、被相続人の財産、全相続人の確定などが終わっていることは滅多にありませんから、改めて相続の大筋についての話し合いのために帰国することになるでしょう。
特に遺産分割協議を行う場合には一度の話し合いではなかなか合意に至ることは難しいものです。このため海外に戻ったのちに電話やメールで話し合いを詰める必要があります。最近ではスカイプなどでビデオ通話もできますので利用すると言葉や表現の行き違いなども起こりにくいのでおすすめです。大筋だけを決めて細部は電話や手紙などで決める方法は、相続人が海外にいる場合だけでなく、国内でも遠方であったり病気などで外出できない相続人がいる場合にはとても便利な方法です。
ただ、全員が合意までに時間がかかったり必要な書類を集めるのが手間取ったりしがちなので、時間に余裕を持って早めに遺産分割協議に取り掛かることが重要です。海外在住の相続人は各種証明書を現地の日本大使館で発行してもらわなくてはなりません。大使館が遠い場合もありますので、必要書類についてはあらかじめ入念に調べることをおすすめします。
遺産分割協議を終え、遺産分割協議書を作成する際には相続人全員の署名と捺印が必要です。相続人の中に海外に在住するものがいる場合には、遺産分割協議書を郵送して手続きをしなければなりません。ここで重要になるのが、海外では印鑑証明制度が無いということです。
また、住民票の代わりになるものも別に取得しなければいけません。まず、海外の住所を証明するための在留証明書を取得します。これは遺産分割協議書に記入する住所を公に証明するために必要なのですが、在留証明書の取得は、日本国籍があり3ヶ月以上現地に滞在していなければなりません。
ただ、3ヶ月未満であっても滞在予定があって公共料金の証明書などがあれば取得は可能です。申請には日本国籍を証明する戸籍謄本、パスポートを持参し手数料を1000円前後支払います。次に印鑑証明書の代わりになるサイン証明書を日本大使館で発行してもらいます。必ず相続人本人が遺産分割協議書と(まだサインをしてはいけません)パスポートを持参し、領事の立会いのもとで署名し拇印を押します。さらにサイン証明書を作成してもらい遺産分割協議書と合わせて割印し手数料を2000円前後支払います。こうして出来上がった書類を再び日本へ送り返すことになります。
被相続人に負の財産が多い場合には相続放棄という手続きができ、相続人が海外に住んでいる場合においても、申請することができます。ただ相続放棄の申し立ては自分に相続があることを知ってから3ヶ月以内にしなければなりませんので、海外とのやりとりに時間がかかることを想定して早めに手続きに取り掛かることが重要です。被相続人が亡くなる直前に住んでいた住所の管轄の家庭裁判所に相続放棄の申述書を提出しなければいけませんが郵送で申し立ては可能です。
まず、戸籍謄本を取り寄せ、次に現地の日本大使館へ赴き、日本でいう住民票の役割を果たす在留証明書を発行してもらいます。発行にはパスポート、住所を確認できる書類、3ヶ月以上の滞在を証明できる公共料金の請求書などが必要です。また、裁判所によってはサイン証明書の必要な場合もあるので確認し必要ならば取得しておきます。
最後に相続放棄申述書の書式をダウンロード、プリントアウトして記入します。在留証明書に記載の住所を間違えずに記入したらすべての書類を一緒に家庭裁判所へ郵送します。この後照会書が送付されますので回答して返送すると相続放棄申述受理証明書が送付されてきます。海外の住所で直接やりとりをしたい場合には国際スピード郵便を使うと早くて便利ですから、あらかじめ裁判所からの返信封筒を2通用意して申し立ての際に提出するとスムーズです。