相続手続き基礎知識

自筆証書遺言の作り方⑨-豆知識

遺留分(いりゅうぶん)とは

相続人には、相続分のうち、必ず確保されるべき割合が法律で定められています。
これを「遺留分」と言います。

例えば、被相続人が遺言により、「遺産のすべてを愛人Aに遺贈する」としていた場合にも、被相続人の妻や子は、遺留分によって確保されている部分については、自己の相続権を主張することができます。また、相続人が複数いる場合に、特定の相続人にすべてを相続させる旨の遺言だったような場合にも、遺留分を侵害された他の相続人は、自己の遺留分を主張することができます。

ただし、遺留分を確保するには、それが侵害されたことを知ってから1年以内に、侵害している相手方に対して、積極的に取り戻し請求をしなければなりません。(これを遺留分減殺請求と言います。)また、侵害されたことを知らなくても、相続開始から10年が経過すると、この権利を行使することはできなくなります。

遺留分の割合は、法律により、以下のとおり定めれらています。

 直系尊属だけが相続人の場合  相続財産の3分の1
 その他の場合  相続財産の2分の1

 

遺留分に反した遺言書の効力

上記では遺留分につき説明いたしました。
では、相続人の遺留分を侵害してしまうような遺言書を作成した場合、その遺言書は無効になってしまうのでしょうか?

答えは、無効とはなりません。
たとえ、民法の遺留分の規定に反する内容の遺言書が作成された場合でも、その遺言は無効となりません。
上記でも説明しましたが、遺留分を侵害された相続人が、自ら積極的に遺留分減殺請求をすることによって、はじめてその遺言の効力が、遺留分に反する限度において覆ります。
つまり、遺留分に反するような財産処分が行われた場合、遺留分減殺請求権を行使するか否かは遺留分を侵害された相続人の自由であり、相続人がその権利を行使しない限りは、その財産処分行為の効力が失われることはありません。

 

 

 

 

 

 

 

自筆証書遺言の作り方⑧-豆知識

今回は前回に引き続き、遺言における財産の特定方法を見ていきましょう。

現金・預貯金

現金や預貯金は、以下のように特定していきます。

・「現金」

・「○○銀行○○支店 普通預金(定期預金)」

・「○○銀行○○支店 普通預金 口座番123456」

・「ゆうちょ銀行 通常貯金」

・「ゆうちょ銀行 通常貯金 記号1234 番号123456」

通常の銀行預金については、銀行名・支店名・預金種類・口座番号で特定します。
また、ゆうちょ銀行については、貯金の種類・記号番号で特定します。
一つの銀行に複数の口座があり、これをそれぞれ複数の相続人に相続させたいような場合には、通帳の記載をよく確認し、間違えないように記載しましょう。
また、預貯金の額については、相続発生時までに変動することが予想されますので、書かないほうが良いでしょう。

株や投資信託などの有価証券

株式

・「○○株式会社の株式 すべて」

・「○○株式会社の株式 2000株」

投資信託

・「投資信託 ○○ファンド すべて」

・「投資信託 ○○ファンド 5000口」

出資金

・「○○信用組合に対する出資金 すべて」

有価証券の場合、取引していた証券会社の会社名・支店名なども記載しておくのが良いでしょう。
また、ある特定の銘柄のすべてを相続させたい場合は、株数や口数が相続発生時までに変動することもありえますので、これらについては、記載しないほうが良いでしょう。

債権

・「平成2年3月4日に甲野太郎に貸した貸付金 金200万円」

・「平成2年3月4日○○商店に対する売掛金債権」

・「○○事業における売掛金債権のすべて」

債権については、発生年月日や相手方などで特定します。

 

自筆証書遺言の作り方⑦-豆知識

今回から何回かの分けて、遺言書に記載する財産の特定の仕方について、確認していきたいと思います。
遺言書を書いても、財産が特定できないというのでは、せっかく書いた遺言書が台無しになってしまいますので、しっかりと確認していきましょう。

不動産について

遺言書に不動産を記載していく場合、主に以下のような記載の方法があります。

・「すべての不動産」

・「すべての土地」

・「新宿区高田馬場一丁目2番3の土地」

・「所在 新宿区高田馬場一丁目
 地番 2番3
 地目 宅地
 地積 100.20㎡ 」

・「すべての建物」

・「新宿区高田馬場一丁目2番地3
 家屋番号 2番3の建物」

・「所在    新宿区高田馬場一丁目2番地3
 家屋番号  2番3
 種類     居宅
 構造     木造スレートぶき3階建て
 床面積    1階 30㎡ 2階~3階 50㎡」

・「新宿区高田馬場一丁目2番3の土地上にある(未登記)建物」

土地は所在と地番、建物は所在と家屋番号が正確に記載されていれば、特定できます。
これらの所在等は、法務局で取得できる登記事項証明書(いわゆる登記簿謄本)を確認して記載しましょう。
登記事項証明書は、遠方の不動産のものであっても、最寄りの法務局で取得することができます。

土地を記載する場合には、私道部分になっている土地を書き漏らさないよう、十分に注意しましょう。
自宅に敷地の面している私道がある場合、近隣の方と共有により所有していることが多くあります。
しかし、私道は、自己の所有であるというこの認識が薄く、遺言に記載し忘れてしてしまうことが予想されます。
もし、私道のみを遺言に記載し忘れた場合、私道部分については、相続人全員で遺産分割協議をしなければならなくなるので、要注意です。

不動産の共有持分がある場合、持分の記載方法は以下のとおりです。

・「…の共有持ち分の全部」

・「所在 豊島区池袋一丁目
 地番 2番3
 地目 宅地
 地積 99.12㎡ 
 共有持分 5分の1

 

 

自筆証書遺言の作り方⑥-豆知識

今回は、実際に遺言書を書いた後の注意点を確認していきたいと思います。
遺言書は、一度作成した後において、いつでも書き直すことができます。その時に注意していただきたい事項がありますので、以下で見ていきましょう。

前に書いた遺言書と内容が矛盾する遺言書を書いた場合

例えば、「自宅の土地・建物はAに相続させる」とした遺言書を作成した後、「自宅の土地・建物はBに相続させる」とした遺言書を作成した場合が問題となります。
このように、内容が矛盾する遺言書が存在する場合、前に作成された遺言書については、その矛盾する限度で、後の遺言により撤回されたことになります。
よって、この場合は、「自宅の土地・建物」についての遺言は、後の遺言書が効力を有することになります。

なお、前に書いた遺言書と、後に書いた遺言書の内容が矛盾しない場合、例えば、「自宅の土地・建物はAに相続させる」とした遺言書と、、「預貯金はBに相続させる」とした遺言書が存在する場合は、作成の前後を問わず、どちらの遺言書も有効です。

遺言者が、遺言書に書いた内容と矛盾するような行為をした場合

例えば、「自宅の土地・建物はAに相続させる」とした遺言書を作成した後、遺言者が、自宅の土地・建物をCに売却してしまったような場合も、その限度で遺言は撤回されたものとみなされます。
遺言者自身が、遺言に反するような行為をしているということは、矛盾する内容の遺言を作成した時と同様、当然に遺言に書いた内容を撤回する意思があると推認できるからです。

遺言書を書きなおす時は・・・

上記で説明したとおり、複数の遺言があったとしても、遺言自体が無効となることはないのですが、新しく遺言を書きなおす場合には、前に書いた遺言書は、破棄してしまうのが良いでしょう。
遺言書が複数あると、相続人が混乱するでしょうし、無用の争いを生む可能性もあるからです。
内容の一部を書き直したい場合でも、あらためて全部を書き直し、古い遺言書は破棄しましょう。

 

 

自筆証書遺言の作り方⑤-豆知識

付言とは

遺言には、相続人の指定などの本文以外に、自身の「想い」や「願い」などを記載することもできます。
これを「付言」といいます。
付言には、法的な効力は生じませんが、相続人に対する感謝の気持ちや、なぜこのような遺言にしたのかという理由を書くことによって、相続人の遺言内容への不満を和らげる効果が期待できます。

また、葬儀の方法や、お墓のことなど、死後の事柄についての希望を書いておくのも良いでしょう。

以下では、付言の記載例を、見ていきます。

付言に記載例

[事例1] 特定の相続人に相続させた理由を記載したもの

私の唯一の財産である○○の不動産をAに相続させるとしたのは、私が病気で入院していた際、その費用を負担してくれたのみならず、献身的に私の面倒を見てくれたからです。

[事例2] 遺産配分が少ない相続人へ、その理由を記載したもの

Aには、これまで、留学費用や、自宅の改築費など、かなりのお金を提供してきました。一方、BにはAほどお金を提供する機会はありませんでした。そういったことを考慮して決めた遺産配分ですから、Aはこの点を理解してください。

[事例3] 葬儀方法の希望を記載したもの

私の葬儀については、以の要領で行われることを希望します。
 1.無宗教でおこなうこと
 2.参列者は、親族のみとして密葬で行うこと
 3.葬儀にかかる費用は、遺産の中からこれに充てること。
 

自筆証書遺言の作り方④-豆知識

今回は、自筆証書遺言を作成する際の注意点を確認していきたいと思います。

遺言を書く紙は、破れにくいものを選びましょう

せっかく書いた遺言書が、相続発生時にはボロボロで読めないということでは困りますので、便箋など、しっかりとした用紙に書くようにしましょう。

筆記用具は、文字が簡単には消えないものを選び、文字は正確に書きましょう

遺言書は、ボールペンなど、文字が簡単に消えないもので書きましょう。
また、遺言の内容が正確に伝わるよう、誤字などがないよう気を付けましょう。

相続人には「相続させる」と書き、相続人以外には「遺贈する」と書きましょう

法定相続人に遺産を相続してもらいたい場合には、「○○に相続させる」と書きましょう。
「譲る」「与える」「託す」などの文言を使うと、「相続」とは別の意味に解釈されてしまう恐れがあるので、注意しましょう。

相続権がない人に遺産を譲りたい場合には「○○に遺贈する」と書きましょう。

遺産を継がせる相手や、遺産の内容は、だれが読んでも特定できるように書きましょう。

遺産を継がせる相手を特定する場合、名前だけ書くのではなく、住所や生年月日、親族であれば続柄など、だれが読んでも、その人だと分かるように書くことが肝要です。
遺産を特定する場合は、不動産であれば、所在や地番、地目・地積等、登記簿謄本に記載してあるとおりに書きましょう。
預金については、銀行名や支店名、預金の種類などを正確に書きましょう。
財産の特定の仕方(書き方)の詳細は、次回に譲りたいと思います。

 

 

 

自筆証書遺言の作り方②-豆知識

前回は、自筆証書遺言の書き方のルール(要件)を確認しました。
今回は、そもそもどのような方が遺言を作成したほうが良いのかということを確認していきたいと思います。

遺言書を作成すべき場合

以下のような方は、特に遺言を作成することをお勧めします。

妻(夫)との間に子供がいないので、遺産はすべて妻(夫)に残してあげたい

子がいない夫婦の一方が亡くなり、相続が発生した場合、遺言書がないと、亡くなった夫(妻)の両親や、兄弟姉妹が共同相続人として関与してくることになります。
よって、残った相手方に遺産のすべてを相続させたいという場合には、必ず遺言書を書くようにしましょう。
夫婦間でお互いに遺言書を作り、相手の遺言書を持ち合うのも良いでしょう。

相続人ではないが、生前にお世話になった人に財産を譲りたい

例えば、「同居していた長男のお嫁さんに財産を譲りたい」「内縁の妻(夫に)財産を残したい」「お世話になった施設や慈善団体などに寄付したい」という場合です。
このように相続権がない人(法人)に遺産を譲りたい場合は、譲る相手を確実に特定できるよう、氏名・住所・生年月日(相手が法人の場合は、名称・所在地)などを正確に記載しましょう。
なお、この場合、遺言執行者を指定しておくのが良いでしょう。

家業を継ぐ子供に、事業用財産を単独で相続させたい。

遺言者の会社の株式や事業用財産である不動産・動産・預貯金・債務などを、家業を継ぐ子に相続させる内容の遺言を作成しましょう。

子を認知したい

この場合、遺言執行者が戸籍の届出をしなければなりませんので、必ず遺言執行者を指定しておきしょう。

虐待した推定相続人(相続人となるべき人)に、遺産を残したくない。

この場合、相続発生後に遺言執行者が家庭裁判所に排除の請求をしなければなりませんので、必ず遺言執行者を指定しておきしょう。

自筆証書遺言の作り方①-豆知識

自筆証書遺言とは?

今回は、一般の方でも簡単に作成できる「自筆証書遺言」について解説したいと思います。
自筆証書遺言とは、その名のとおり、遺言者が自筆で書いた遺言書のことをいいます。

遺言は、ご自身の財産や、身分関係について、死後に法的な効力が生じるよう、遺すものになります。
したがって、せっかく遺言書を作成したのに、法的な要件を欠いていたために効力が生じなかったということは絶対に避けなければなりません。
ということで、今回は、自筆証書遺言がきちんと効力発生するための要件(書き方のルール)を確認していきたいと思います。

 

自筆証書遺言を書くときのルール

自筆証書遺言を書くときのルールは、以下の2つになります。

①全文・作成日付・作成者氏名を自筆で書く

 相続人を指定する際は、「妻に」「長男に」ではなく、きちんと名前も書いたほうが良いでしょう。
 日付は和暦・西暦いづれでも大丈夫ですが、日にちまで必ず書くようにしましょう。
 作成者の氏名は、通称名やペンネームを書くのではなく、戸籍上の氏名を正確に書きましょう。

②作成者の印鑑を自分で押印する

 印鑑は認印でも大丈夫ですが、作成者本人が押印したことを明らかにする意味で、実印にて押印するのが好ましいといえるでしょう。

 

以上で見たように、ワープロで作成したものや、映像によって作成したものは、無効となりますので注意してください。

 

 

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